東京高等裁判所 昭和46年(行ケ)116号 判決
一 前掲請求の原因のうち、本願発明につき出願から明細書の補正を経て審決の成立、その謄本の送達にいたるまで中間の手続を含む特許庁における手続、発明の要旨(ただし、明細書補正の適否の点は暫く措く。)、及び審決の理由に関する事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、右審決の取消事由の存否について判断する。
成立に争いのない甲第二号証(本願公報)によれば、本願発明は、任意の凹凸を有する熱可塑性のフイルムないしシート又はシート状物を、化粧板成型材料の表面に接触させて成型した後、剥離することにより、簡単な操作で必要な凹凸模様を有し、全体として半光沢ないし艶消し状の表面を有する合成樹脂化粧板を製造する方法に関するものであること、その原明細書中、特許請求の範囲には化粧板成型材料の成型方法を限定する特段の記載はなかつたことが認められるところ、原告が手続補正書の提出によりこの点を本願明細書中、特許請求の範囲に「化粧板表面が半光沢ないし艶消しになるに十分な熱と圧力をかけて」と規定して補正したことはさきに確定したとおりである。
原告は、右補正にかかる化粧板成型方法の構成をいわゆる高・低圧積層成型である旨を主張するが、前出甲第二号証によれば、右成型方法にいう「半光沢ないし艶消しになるに十分な熱と圧力」が原告主張のように従来公知の条件たる摂氏八〇ないし一八〇度程度の熱と一平方センチメートル当たり五ないし一五〇キログラム程度の圧力とを意味することについては、本願明細書中特許請求の範囲にその旨を示す記載がないのみならず、発明の詳細な説明にもこれに関する説明の記載がなく、僅かに実施例として、摂氏一五〇度、一平方センチメートル当り八〇キログラムの圧力で六〇分間加熱加圧するもの、摂氏八〇ないし一〇〇度、一平方センチメートル当たり五ないし一〇キログラムの圧力で加熱加圧するものが記載されていることが認められるにすぎず、右実施例の加熱加圧条件をもつて、本願発明の構成を限定するものでないことはいうまでもないところである。また、右成型方法の記載自体により原告主張のように接触圧成型の技術を排除して高・低圧積層成型の技術を用いることが明らかにされたものと解すべき論拠はない。もつとも、成立に争いのない甲第十四号証の二(技術文献)には強化ポリエステル部品は無圧(又は接触圧)成型において外圧なしで室温で硬化する旨の記載があるが、成立に争いのない甲第六号証の二ないし四(技術文献)にポリエステルの成型技術として接触圧積層の方法がある旨の記載があること、反面、合成樹脂化粧板の表面形状が半光沢ないし艶消しのものが接触圧積層成型の方法によつては得られないと認むべき証拠がないことを併せ考えれば、甲第十四号証の二の右記載は、接触圧積層成型が一般に外圧の加わらない方法であることまで言つているものと解することができず、まして、合成樹脂の成型のため基材に「圧力をかける」方法といえば当然高・低圧積層成型の技術のことであつて、接触圧積層成型の方法を含まないと解する根拠となるものではない。なお、成立に争いのない甲第十五号証の二(技術文献)中、プラスチツクに加えられる圧力の高低に関する記述は以上の見方を左右するに足りるものではない。そして、前出甲第二号証によれば、本願明細書中、発明の詳細な説明には、そのほか本願発明が原告主張のように高・低圧積層成型の技術分野において合成樹脂の素材に応じて必要とする熱と圧とを適宜選択するものであることを窺わせる記載がないのみならず、前出甲第六号証の二ないし四によつて認められるように、本願出願当時、合成樹脂の積層成型技術としては高圧成型、低圧成型のほか、接触圧成型も行われていたことを考え併せれば、格段のことがない限り、本願発明は前記補正によつても接触圧積層成型を除外するにいたらなかつたものと解するのが相当である。
しかるに、第一引用例中、当事者間に争いのない審決認定の記載と成立に争いのない甲第三号証(第一引用例)によつて認められるその余の記載によれば、第一引用例の方法は、その明細書の記載上、合成樹脂化粧板の製造について接触圧成型を行い、成型時の熱と圧力を適当に調整して化粧板の表面に微細なしわを多数生じさせることにより、新規な化粧効果を付与するものであることが認められる。
してみると、本願発明は、右補正を経ても、その明細書中、特許請求の範囲に記載の事項によつて構成される加熱加圧積層成型の方法において第一引用例のものと異なるところがないといわざるを得ない。ただ、本件口頭弁論の全趣旨によれば、本願発明は熱可塑性フイルムとして凹凸を有するものを用いる点において第一引用例の方法と構成を異にすることが認められるが、第二引用例に、プラスチツクシートの凹凸模様を形成するためエンボスされた鋼板またはその代わりに荒目な布、金網、紙やすりなどをあてて加熱加圧することが記載されていることは原告の認めて争わないところであるから、本願発明の凹凸を有する熱可塑性フイルムを使用する構成も第二引用例の技術に基づき当業技術者が容易に推考することができる程度のものであるというべく、したがつて、右補正にかかる本願発明は出願の際特許を受けうるものとはなし難い。なお、前出甲第二号証によれば、本願明細書中、発明の詳細な説明には、なお書きとして、「本発明において、得られる合成樹脂化粧板は、全体として、半光沢乃至艶消し状の化粧表面を有するものである。」との記載があることが認められるのに対し、第一引用例の方法は、前出甲第三号証(第一引用例)によつても、化粧板の表面に艶消し効果を与えることを目的とするものと認めることができないが、両発明の構成が前記のように、熱可塑性フイルムとして凹凸のあるものを用いると否との点を除き同一と考えられ、また、本願発明において右のような形状のフイルムを用いるのも、前出甲第二号証によれば、専ら化粧板の表面の立体感をねらつたものであつて、これに半光沢ないし艶消しの効果を付与することを目的としたものではないことが認められるから、他に特別のことがない限り、本願発明による前記のような効果は、第一引用例から当然想到し得る範囲を出てないものと認めるのが相当であつて、本願発明の進歩性を肯定する材料となし難い。
したがつて、審決が右補正の却下決定を正当としたのは相当であるから、右決定を是認したため本願発明の要旨の認定を誤つたとして審決を違法とする原告の主張は失当である。
三 よつて、本件審決に原告主張の違法があることを理由にその取消を求める本訴請求を失当として棄却する。